フェレットに何らかの「感染症の疑い」がある場合、真っ先に名前があがる疾病の1つに「アリューシャン病」があります。
ですが、「うつる病気」である事にくわえ「治らない」という事で、必要以上に怖がって、「避けなければ」が強すぎて、正しい知識がどこかへ行ってしまっている飼い主さんを時々見かけます。
確かに、病気には「ならなければ良い」のが一番ではありますが、それは「絶対に」そうしてあげる事なんて不可能です。
「どうして病気になるのか」をきちんと知っておく事で、「病気になる」という事自体への漠然とした過剰な不安は薄れます。
予め、「その子の体にも起きるかもしれない事」として、正しい知識を持っておく事で、いざ何かが起きた時にも「冷静に」色々と考えてあげる事が出来ます。
今日は、「なぜ、アリューシャン病の疑い」が多いのか、また「なぜ、間違った知識を持った人がいるのか」、その辺の事情を実際の症例なども交えて詳しくお話しさせて頂こうと思います。
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フェレットのアリューシャン病とは
もともとはフェレットと同じイタチ属の「ミンクの病気」で、この病気が最初に見つかったミンクの品種がアリューシャン系だった事から、この病名が付けられました。
「パルボウイルス」に感染することによって起こるウイルス性の病気で、アリューシャン系のミンクやフェレットには致命的な病とされています。
パルボウイルスとは
一般的には「子犬の重篤な感染症」として広く知られていますが、同じパルボウイルス科でも、ミンクやフェレットのパルボウイルスとは「種類が異なる物」なので、犬とフェレットの間で感染する事はありません。
犬だけでなく、猫のパルボウイルス感染症もまた別のパルボウイルスであり、実はヒトパルボウイルスもまた別のものです。
そして、それらは全て別の動物のパルボウイルスへの感受性はお互いにありません。
パルボウイルスについて
この子達が接種する「ジステンパーワクチン」
それについてはこちら(フェレットのジステンパーワクチン事情)で詳しくご説明させて頂いていますが、そのほとんどが「犬用の混合ワクチン」です。
2種・3種・またはそれ以上の混合ワクチンの中には、犬アデノウィルスや「犬パルボウイルス」に対する抗原(抗体を作るための物質)が入っています。
この辺りがこんがらがっている人が、フェレットのサイトを起ち上げていた事が現在のこの「アリューシャン病をあやふやに怖がらせている誤認」の発祥かと思います。
上記のように、名前に同じ「パルボ」が付くだけで「種類が異なる」ウイルスなのですから、そのワクチンを接種する事によって、フェレットのアリューシャン病を防ぐ事は出来ませんし、ましてや、それで、アリューシャン病を発症するなどいう事は有り得ません。
アリューシャン病を引き起こす種のパルボウイルスはフェレットの肝臓や腎臓、脊椎、消化管などに感染します。
感染すると、体内ではウイルスを排除するために抗体が作られますが、ウイルスを排除することができず、抗体や抗原が結合した免疫複合体というものが作られます。
この免疫複合体が体内で炎症を起こしたり、組織を傷付けることで様々な症状が起こります。
主な症状と特徴
- あまりはっきりとした症状がでないこと
- 感染した状態が長く続くこと
が特徴とされていて、その経過は慢性的なものとなります。
具体的には
- 食欲が無い
- 下痢
- 嘔吐
これらは
- 何かしらの治療を施すと一時的に回復して見えたりする(例:下痢止めの投与で下痢が治まる)
のが、特徴の1つで
- 治療をやめるとまた同じ症状がでる(例:下痢止めの投薬を止めるとまた下痢をする)
のも、その特徴だったりします。また、
- 寝てばかりいる
- 体重が落ちる
- 運動失調(遊ばなくなる)
から、次第に
- 四肢の麻痺
- 粘膜が白くなるなどの
- 貧血状態が見られたり
- 血便がでる
こともあります。
- 肝腫(肝臓の腫大)
- 脾種(脾臓の腫大)
などを引き起こすこともあります。
慢性的な症状はゆっくりと、でも確実にその症状が重くなっていくのが、このアリューシャン病の特徴です。
感染経路
感染しているフェレットの排泄物、唾液のほか、飼育グッズや「人」を介しても感染します。
感染力は弱いなどと書いてあるサイトが稀にありますが、パルボウイルスは強力です。
乾燥して粉末状になった便からでも感染する事が知られています。
感染しているフェレットに近づけないのはもちろんですが、それが分からない事も多いですから、その子に触る前と後には必ず手を洗い、飼い主さまがウイルスを運ばないように徹底して下さい。
感染させないために
特に多頭飼育をされている方へ向けての注意事項になりますが、感染しているフェレットがいる場合には徹底した注意が必要です。
普通の石鹸やアルコールではパルボウイルスは死滅しません。
塩素などの強力な消毒薬で徹底的な消毒を心がけ、他の子達への感染を防いであげて下さい。
治療法
完治のための治療薬はまだありません。
2014年の資料には「治療法は研究途上」とあり、そこには、ステロイドやメラトニンによる治療も「有効な治療方法とは言えない」と記載されています。
二次感染を防ぐためには抗生剤投与は必須です。
発症した個体は体力低下を防ぐために強制給餌や点滴投与、インターフェロンで進行を遅らせるなどしつつ、その時のその症状に合わせた対処療法で症状を緩和させます。
だから、獣医さんとよく話し合って、一番いい治療方法をその子のために選んであげて欲しいと思います。
予防するには
ワクチンもまだ存在しません(2017年時点)。
治療法もなく予防薬もないのに、定期検診で抗体検査を行う病院があります。
それは二次感染を防ぐためのものであったりもします。
上記のように、症状ではなかなか気付くまでに時間がかかる…
というより、検査をしないと分からない事の方が多いので、多くのフェレットが集まる場所へニョロリンとお出かけする機会の多い飼い主様は、
何かがあったその時に、移さないための責任として一度は必ず、アリューシャン病の検査をされておいた方が良いんじゃないかなって思います。
検査の必要性
感染しているフェレットは「無症状」である場合が多く、上記のように、アリューシャン病だと判断できる特徴的な症状は特にないので、その多くが、分からないまま長期間をそのまま過ごしてしまう事になります。
お迎えした時にはすでに(ファームやショップまたはその途中で)感染していたんじゃないかと思われるフェレットのお話しも聞いた事が無いわけではありませんので、そういう機会は無かったという飼い主様も一度は検査をされた方が良いのかもしれません。
検査では血液中のγ(ガンマ)グロブリン値の上昇や抗体価検査で判断するのですが、何回か検査を繰り返さなければ、その判断が出来ない場合もあります。
多くの場合、「一般の健康診断」や「普通の血液検査」には、アリューシャンについての検査項目は入っていません。
アリューシャン抗体血清検査とは
アリューシャンの検査というのは、
「アリューシャンかどうか」の検査では無く、アリューシャンじゃないかどうかを調べるというやり方が一般的な方法です。
血液を採取したその場でチャチャっと分かるものでは無いし、一般的な検査で出した「この数値がこうならアリューシャン確定」というものでも無いのです。
それを調べるためだけの特別な検査が必要とされるので、普通の検査とはまた別にその分だけより多くの血液が必要となります。
また、検査費用も、その分だけ割高になります。
「抗体血清検査」について、ここまで詳しいお話しを聞かせて下さった湊どうぶつ病院(東京都中央区)より、フェレットの健康診断コースの一覧表をお借りしてきました。
検査費用の具体例
①:スタンダードコース¥ 18,000
②:スタンダード・プレミアムコース¥ 30,000
③:シニアコース×¥ 40,000 / ○ ¥ 48,000
〈③は 4歳 ~ が適年齢となります〉
ここまで、お読み頂ければ、「アリューシャン病」というのは、
「感染症ではあるけれど、そうじゃないかと調べなければ、アリューシャン病かどうかは分からない病気」だという事がお分かり頂けたと思います。
だから、病院などでも、某かの症状は出ているけど、その原因が分からない等という時には「先ずアリューシャンを疑う」のです。
世の中に、こんなにたくさんの「アリューシャン病の疑い」があるのはその為なのですよ。
ただの「疑い」を怖がらないで下さいね。
「アリューシャン病の疑い」が多い理由の実例
今回すべての症例をアリューシャン病と診断できたわ けではなく,今後さらに様々な角度から抗原の検出や他 疾患との鑑別も含めて検討が必要と思われた.何らかの 臨床症状を示しTPの上昇,あるいはγグロブリンの上昇 が確認された12症例全てが最終的に致死的な経過を辿っ ており,初期に食欲不振や発咳などの単一の症状を示し ている症例であっても高蛋白血症が伴った場合,経過と 予後には十分注意が必要であると思われた.
これは、日本獣医学会における「広島獣医学会雑誌」より抜粋してきたものです。
詳細は「広島県獣医師学会のデータ:高蛋白血症を示しアリューシャン病が疑われたフェレットの12症例」でしたが、該当サイトが無くなってしまいました。
ので、こちら、獣医学ジャーナル「フェレットの自発性アリューシャン病」など参考にして頂けたらと思います。
このように、最初にアリューシャン病が確定するのではなく、某かの症状があって初めてアリューシャンじゃないかの検査をする。
上記でも書いたように「まずは、アリューシャンを疑え」です。
この抜粋文の症例でもそうですが、疑わしき時は、アリューシャンじゃないかの検査を1番はじめにして、そうじゃなかったら、「じゃあ、何だ?」とそこからしらみつぶしに検査が進められていくのです。
アリューシャンの疑い 具体例1
①後ろ足に力が入っていないような時があるフェレットを検査したところ、触診で②脾臓が腫れてる事が分かったので、エコーを撮りました。
肝臓がザラザラして見えます。
このように、③肝臓に某の症状が出ている(※黒い空洞は嚢胞(のうほう)じゃないかとの診断です)その時の血液検査の結果で④なんとなく疑わしい数値が出ました。
この子はそのまま「アリューシャン病の疑い」があるとして、アリューシャン抗体血清検査をお願いする事になりました。
結果は「陰性」です。
解説!
- アリューシャン病による四肢の麻痺かもしれないし、低血糖など他の疾患の可能性もあります。もしかしたら、一時的なそれの場合だってあります。
- 脾臓が腫れる原因は実にたくさんあります。この子達は「加齢による症状」にもそれがあります。
- 肝臓がこのような状態になるのは何もアリューシャン病(パルボウイルス)によるものだけではありません
- この数値がこうだからこの病気です!と一回の検査でその答えが出せるような血液検査はありません
アリューシャンの疑い 具体例2
歯の治療(抜歯)をする事になったうちのダンディわさび君
今日のアイキャッチ画像の真ん中です。
全身麻酔による手術に耐えられる体かどうかの検査で「グロブリン値4.7・A/G値0.6」と出ました。
これは免疫異常を表す数値です。
フェレットでこの数値がでた場合、疑わしきは腫瘍か感染症です。
まずはアリューシャンを疑え!の例に漏れず、ワサビもアリューシャン病の疑いで抗体血清検査をしてもらいました。
結果は「陰性」でした。
もちろん、その後は「じゃあ、何だ?」の検査をたくさんやりました。
まとめ~安直に安楽死を選ばないであげて欲しいっていうのはただの私の感情です~
某か疑わしい症状が見られた時には「アリューシャン病を疑え」とされているのですから、それを、「アリューシャン病の検査でそれが疑われた」と同等に考えてはいけません。
アリューシャン病は「アリューシャン病じゃないかと疑ってする検査」でしか分からないのです。
だから、「アリューシャン病の疑いがあります」と言われたからといって、即座に「アリューシャン病かもしれない」と不安になる必要はありません。
悲しんだり落ち込んだりする段階では無いんです。
病気を必要以上に怖がらないで下さい。
確かに、アリューシャン病というのは、現在ではまだ治らない病気とされています。
だから、疑いが確定に変わった時には、少し落ち込むよな不安になるような気持ちになってしまうのは飼い主として当たり前に私だって分かります。
でも、それを、その子の命を諦める理由にはしないであげて欲しいんです。
確実に症状が重くなっていく病気ではありますが、その進行は緩やかで、すごく苦しむような大きな発作がでるわけでもありません。
「他の子に移したらいけないから」を理由に、その子の命の終わらせてしまうような選択をするのは飼い主として違うと思うんです。
私は「安楽死」に対して、「絶対に何がなんでも許さない」って考え方ではありません。
以前はそうでしたが、ある事があって、考え方が変わりました。
それでも、やっぱり、この「アリューシャン病」については、その疑いだけで絶望したり、確定したからと言ってその場で直ちにその命を諦めるような思考は、その子の飼い主として持たないであげて欲しいんです。
1つ選択肢を増やすためのアドバイス!
多頭飼育という状況で、一匹のニョロリンにアリューシャン病の感染が分かった時、「他の子」の事を考えて、「その子をその場で」というのは間違っています。
他の子もすでに感染しているかもしれません。
そう考えた時、「全ニョロを」そうしますか?
しないですよね?
そう考えたら、その子の事をその場ですぐに…だなんて答えしか無い訳じゃない事がお分かり頂けますよね?
お部屋を分けるなどした、徹底した隔離飼育とはなりますが、そこでの緩和ケアという方法もあるって、冷静にこれをお読み頂いている今のこの場で、この選択肢も頭にいれておいて下さいね。
どんな時でも最期まであなたと大事なその子が…
皆みんなが、楽しく幸せにニョロニョロ生活を送れますように☆彡
今日のお話しの元記事は
⇒フェレットの感染症の話しで狂犬病まで持ち出してきた人に説明するためにアリューシャン病のお話しを書きました。
今回以上に感情むき出しで非常に長いですので、お時間がある時に、お読み頂ければと思います。